完済して数年後に抵当権の抹消登記をするとき、銀行の代表者が変わっていたら?

住宅ローンを完済しても、それで住宅ローンの手続きがすべて終わりとはなりません。住宅ローンを借りる際、ご自宅の土地と建物に登記した金融機関の抵当権は完済したからといって自動的に消えることはありません。銀行が手続きしてくれることもありません。不動産の所有者が抵当権を消す登記(抵当権抹消登記)をしなければなりません。

抵当権の抹消

 

住宅ローンを完済すると、金融機関から抵当権抹消登記に必要な書類が送られてくると思います。
(受け取ってないという方は、金融機関にお問い合わせください。)

その封筒の中には、

  • 抵当権設定契約証書(登記済証)または登記識別情報
  • 抵当権解除証書、抵当権弁済証書などと書かれた書類
  • 金融機関からの登記委任状

などが入っています。

金融機関からの書類を受け取ったあと、しばらく手続きを放っていた間に、その金融機関の代表者が変わっていたら、手元にある書類で手続きできるでしょうか?

 

委任状を差し替えてもらう方法

抵当権解除証書や委任状には、完済した当時の代表者名で作成されていますので、新しい代表者名の書類に差し替えてもらうのも一つの方法でしょう。

 

旧代表者の委任状を使う方法

しかし、不動産登記法17条には、

(代理権の不消滅)
第17条  登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
 一  本人の死亡
 二  本人である法人の合併による消滅
 三  本人である受託者の信託に関する任務の終了
 四  法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更

と定めてあり、

4号の「法定代理人」には法人の代表者も含まれるという取り扱いですので、旧代表者の委任状を使って手続きをすることができます。

 

この場合、

申請情報に当該代表者の代表権が消滅した旨を明らかにしなければならないものとし、当該会社法人等番号によって当該代表者の資格を確認することができないときは、その資格を確認することができる登記事項証明書を提供しなければならないものとする。
(平成27年10月23日法務省民二第512号通達1(5)ア)

とされていますので、通常の場合と、申請書の記載事項や添付書類が異なりますので、注意が必要です。

 

なお、「不動産登記の実務相談事例集Ⅱ」p23に、

申請情報に当該旧代表者の代表権が消滅した旨を明らかにしなければなりません。また、代表権限を証する情報(委任状)の適格性を申請代理人に明示させる趣旨から、旧代表者が代表権限を有していた時期についても、申請情報において明らかにすべきであると考えられます(注6)。

(注6)平成5年7月30日付け民三第5320号民事局長通達第2の1ア

とあり、

平成5年7月30日付け民三第5320号民事局長通達第2の1アには、

ア 登記申請の代理人が当該代表者の代表権限が消滅した旨及び当該代表者が代表権限を有していた時期を明らかにし、当該法人の登記簿でそのことを確認できる場合

とあり、代表者の代表権限を有していた時期も明らかにすべきとされていましたが、上記平成27年通達により、当該代表者が代表権限を有していた時期を明らかにする必要はなくなりました。(登記研究828号(平成29年2月)P74)

 

申請書の記載例

申請書は、以下のように書けばいいでしょう。

 

  登記申請書

登記の目的 ●番抵当権抹消

原因 平成●年●月●日解除

権利者 A

義務者 株式会社B銀行
     代表取締役 D ←現代表者
   (会社法人等番号0000-01-000000)

添付書類 登記原因証明情報 登記済証 代理権限証書 会社法人等番号※
登記識別情報を提供できない理由 登記済証を所持しているから

令和●年●月●日申請 ●法務局 ●支局

代理人 福岡県久留米市日吉町16番地1ダイマンビル6階
     司法書士 落石憲是
     電話番号 0942-32-0020

登録免許税 金●円

その他事項

登記義務者の代表者Cの代理権限は消滅している。

不動産の表示 (省略)

 

なお、「登記情報659号」に、申請書に記載する金融機関の代表者の氏名は、

登記申請時における代表者の氏名を提供すべきであり、委任をした旧代表者の氏名を提供した場合には、不登法第25条第5号に抵触するため、補正の対象となる(「登記情報659号」p23)

とありましたので注意が必要ですね。

 

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落石 憲是
落石 憲是司法書士
おちいし司法書士事務所の代表の落石憲是です。代表と言っても、司法書士ひとりの事務所です。ホームページはすべて私自身で書いています。

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