休眠抵当権の抵当権者が昔の農業会だったら?【R5改正前】
このページには、以下のことを書いています
抵当権者が法人だったら?
休眠抵当権の抵当権者が法人の場合。
その法人が現在でも存在するのであれば、その法人に連絡して手続きをすればいいのですが、ずいぶん前に解散・清算結了していてもう存在していない法人もあります。
抵当権者が、たとえば、今はない「農業会」の抵当権の抹消登記をご依頼いただいくことがあります。
このように抵当権者が法人の場合は、個人のときと手続きが異なります。
法人の閉鎖登記簿を調査
まずは、登記されている法人の閉鎖登記簿を取ることから始まります。
登記簿が廃棄済みで取ることができなければ、法人が所在不明ということで抵当権者=個人の場合と同じ方法で手続きをすることになります。
以前、当事務所にご依頼いただいた案件では、抵当権者の保証責任●●信用購買販売利用組合の閉鎖登記簿が取れましたが、
昭和19年に●●村農業会の成立により解散し、その権利義務一切は、●●村農業会に承継されていました。
今度は、●●村農業会の閉鎖登記簿を取ると、
●●村農業会は、「農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律(昭和22年法律第133号)」の第1条第3項の規定により、昭和23年に解散し、昭和25年に清算結了していました。
農業会の清算人の調査
つぎは、清算人の調査、つまり清算人の戸籍を取り寄せます。
清算人の中に生きている方がいらっしゃれば、その方との共同申請になります。
【令和5年4月1日以降】は、清算人が全員死亡しているときの手順としては、2通り。
- 地方裁判所に清算人選任の申立をした上で、その清算人と手続きを進める
- 不動産登記法70条の2の要件を満たすのであれば、単独で抹消登記を進める
(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第70条の2 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
※「不動産登記法70条の2による休眠抵当権の抹消」については、コチラをご覧ください。
ここでは、不動産登記法70条の2の要件を満たさないので、1の清算人を選任する方法の説明をいたします。
上記の事例では、清算人が10人登記されていましたので、その全員の戸籍の調査をします。清算人が載っている戸籍は、除籍か原戸籍ですので、1通あたり750円かかります。調査費用はその人数分かかりますので実費がかさみますが仕方ありません。
清算人がすでに死亡していたり、戸籍が取れずに行方が分からなかったりして、清算人がいない場合は、地方裁判所で清算人選任の手続きをすることになります。
清算人選任の申立て
農業会の主たる事務所を管轄する地方裁判所に、清算人選任の申立てを行います。
司法書士は、この申立を代理人として手続きをすることはできませんが、依頼者が申し立てる形で、裁判書類を作成することができますので、ご心配なく。
申立書や必要書類の準備は当事務所でおこないます。
申立書に知り合いの司法書士を候補者として推薦していたら、その通りに選任していただけています。
(裁判所によって取り扱いが異なることもあるでしょうから、申立て前に裁判所と打ち合わせをしてください。)
※裁判所が選任した清算人の報酬は、いくらくらいが妥当なのでしょうね。
この事例では、事前にお願いする司法書士に見積書をいただいて、依頼者にOKをいただいて手続きしました。
登記申請
あとは、物件所有者と清算人と共同して抵当権の抹消登記をするだけです。
ここでちょっと悩んだのが、登記原因です。通常の住宅ローンの抵当権抹消なら、完済した日付で「年月日弁済」とか、契約を解除した日付で「年月日解除」とします。
この事例では、清算人が選任された日以降に、清算人が契約の解除をしてもらうことも考えました。
ただ、事情をまったく知らない清算人に判断してもらうのもどうかなと思いました。
解除を原因として抵当権を抹消すると、保証責任●●信用購買販売利用組合から●●村農業会に抵当権の移転登記をした上で、抹消登記をすることになり、費用が増えることになります。
(司法書士としては、申請件数が増えると司法書士報酬が増えるのでありがたいのですが(笑)、やはり、お客さまの費用負担を抑えられるよう工夫すべきと考えています。)
また、抵当権移転の登記原因と日付を検討しなければならなくなります。
この案件では、検討した結果「時効消滅」 で消すことにしました。
時効消滅であれば、時の経過で明らかなので、清算人に判断してもらう必要はなくなります。
また、保証責任●●信用購買販売利用組合が●●村農業会に承継された日よりも前の日付で抵当権を抹消することができるので、抵当権の移転もせずにすみ、いいことずくめでした。
登記の際の注意点としては、休眠抵当権の抹消登記の場合は登記済証はありませんので、登記義務者である清算人個人の印鑑証明書を添付して、事前通知で手続きしました。
※会社・法人の登記では、通常、清算人が就任したら、そのことを登記しなければなりませんが、このようなケースでは、清算結了の登記がされた登記簿と、裁判所の清算人選任決定書を添付すれば、抵当権の抹消登記をすることができます。
(参考)
- 昭和24年7月2日民事甲第1537号民事局長回答
- 昭和30年4月14日民事甲第708号民事局長回答
- 昭和38年9月13日民事甲第2598号民事局長通達
- 「休眠担保権をめぐる登記と実務」(新日本法規)
抹消登記が終わったら、清算人から裁判所に「業務終了報告書」(登記事項証明書付き)を提出して、物件所有者と清算人から裁判所に「清算人を選任する旨の決定を取り消すことに異議はない」旨の陳述書を提出したら、その数日後、清算人選任決定を取り消す決定が出て、手続き終了となります。
抵当権者が法人の休眠抵当が残っている場合の留意点
以上のように、抵当権者=法人の休眠抵当権の抹消登記をする場合、
- 法人の閉鎖登記簿謄本の調査
- 清算人の戸籍調査
- 裁判所への清算人選任申立
と、登記申請までに1か月程度かかります。
売却しようとしている物件に休眠抵当権が残ったままの場合は、早めに司法書士へのご相談をオススメいたします。
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