不動産登記法70条の2による休眠抵当権の抹消
このページには、以下のことを書いています
抵当権者が法人の場合
休眠抵当権の抵当権者が法人の場合。
その法人が今現在もあるのなら、その法人に連絡して通常どおりに手続きをすることになります。
しかし、抵当権者の中には、ずいぶん昔に解散・清算結了していて、今はもう存在していないケースもあります。
登記簿に残っている抵当権者が、今はない「信用購買販売利用組合」や「農業会」のケースでご説明します。
このように抵当権者が法人の場合は、個人のときと手続きが異なります。
法人の閉鎖登記簿を調査
まずは、登記されている法人の閉鎖登記簿を取ることから始まります。
登記簿が廃棄済みで取ることができなければ、法人が所在不明ということで抵当権者=個人の場合と同じ方法で手続きをすることになります。
以前ご依頼いただいた事案では、抵当権者の保証責任●●信用購買販売利用組合の閉鎖登記簿が取れましたが、
昭和19年に●●村農業会の成立により解散し、その権利義務一切は、●●村農業会に承継されていました。
今度は、●●村農業会の閉鎖登記簿を取ると、
●●村農業会は、「農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律(昭和22年法律第133号)」の第1条第3項の規定により、昭和23年に解散し、昭和25年に清算結了していました。
農業会の清算人の調査
つぎは、清算人の調査、つまり清算人の戸籍を取り寄せます。
清算人の中に生きている方がいらっしゃれば、その方との共同申請になります。
【令和5年4月1日以降】は、清算人が全員死亡または行方がわからないときの手順としては、2通りの方法があります。
1.地方裁判所に清算人選任の申立をした上で、その清算人と手続きを進める
このことは、「休眠抵当権の抵当権者が昔の農業会だったら?【R5改正前】」に書いています。
2.不動産登記法70条の2の要件を満たすのであれば、単独で抹消登記を進める
(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第70条の2 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
ここでは、2.の令和5年4月1日に施行された方法の説明をいたします。
不動産登記法70条の2の要件
1.解散した法人の担保権
2.清算人の所在が判明しない
3.被担保債権の弁済期から30年が経過している
4.法人の解散後30年が経過している
これら4つの条件のすべてに当てはまる場合、供託などをすることなく、物件の所有者が単独で抹消登記を申請することができます。
1.と4.を示すものとしては、法人の閉鎖登記簿謄本
2.を示すものとしては、法人の閉鎖登記簿謄本に記載された清算人の戸籍抄本や住民票。戸籍等に該当者が見当たらない場合は、不在籍証明書、不在住証明書
令和5年通達には、
『改正不登法第70条第2項に規定する方法による調査(前記(2)エの二の方法による調査)の結果を記載した報告書(共同して登記の抹消の申請をすべき法人及びその清算人の調査の過程で収集した書類並びにこれらの者の所在調査に係る郵便記録等を添付したものをいう。以下「調査報告書」という。)』
と書かれています。
清算人の調査に関する書類として、
・戸籍等の証明書のみ添付すればよい法務局
と
・「調査報告書」を添付しなければならない法務局
がありましたので、「調査報告書」を添付するほうが無難かもしれません。
ちなみに、昭和63年通達(民三456号)では、
『申請人が当該法人の所在地を管轄する登記所等において調査した結果を記載した書面(申請人の印鑑証明書を添付したもの)』
と調査報告書の作成者は申請人となっていましたが、令和5年通達にはそのような記載がないことから、申請代理人の司法書士が作成したもので構いません。
(補正の際に当地の登記官に確認済みですが、これも管轄の法務局によって取り扱いが異なるかもしれません。)
3.を示すものとしては、土地の閉鎖登記簿謄本
登記申請
4つの要件を満たすのであれば、あとは、物件の所有者が単独で抵当権抹消登記を申請するだけです。
清算人と共同して申請する場合は、登記原因について悩みましたが、不動産登記法70条の2の要件を満たす場合は登記原因も考える必要はありません。
令和5年通達で、
改正不登法第70条の2の規定により登記権利者が単独でする先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消の申請において、申請情報の内容とする登記原因は、「不動産登記法第70条の2の規定による抹消」とするものとし、登記原因の日付を要しない。
とされました。
※通達は法務省ホームページに掲載されています。
抵当権者=法人の休眠抵当が残っている場合の留意点
清算人を選任した上で抹消登記をするするケースでは、登記申請までに1か月程度かかっていましたが、
不動産登記法第70条の2を使って抹消する場合は、裁判所の手続きをする必要がありませんので、期間は短縮されるでしょう。
しかし、通常の住宅ローンの抵当権の抹消と違って、閉鎖登記簿謄本を取得したり、清算人の戸籍抄本を請求したり、調査に時間がかかります。
売却しようとしている物件に休眠抵当権が残ったままの場合は、早めに司法書士へのご相談をオススメいたします。
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