不動産の所有権は放棄できるのか?
私の事務所には、毎月、司法書士会からの会報誌や登記の専門雑誌や、業務で必要になった書籍を購入するので、本棚に本が入らなくなってきました。
年に1度は、もう読むことはなさそうな本や資料を処分するようにしています。
本や書類なら、簡単に捨てることができます。
相続登記のご依頼の際、「実家の名義変更をしてもだれも住む予定はないんですよね」とお客さまから、しばしばお聞きします。
たとえば、誰も住まなくなった「家」。
買ってくれる人が見つかればいいのですが、売れそうにない物件だったら、所有権を放棄して、国や自治体に引き取ってもらうことはできるのでしょうか?
このページには、以下のことを書いています
所有者のない不動産
民法の第239条2項には、
所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
とあります。
たとえば、不動産を所有していた人がなくなったけど、その方に相続人が一人もいなかった場合。
このときは、相続財産管理人が選ばれ、種々の手続きを経た上で、最終的に国庫に帰属されますので、「所有者のない不動産」の一つの例に当たるでしょう。
不動産の所有者が所有権を放棄したら?
不動産の所有者が、たとえば自分では管理できないなどの理由で、所有権を放棄したいと思ったら、国や自治体は引き取ってくれるのでしょうか?
その答えは、民法などには規定されていないようですが、不動産登記の先例に参考になる質疑応答があります。
どういう内容かというと、
- ある神社の所有地の一部が、がけになっていて今にも壊れそうになっている。
- この工事に要する費用が高額で、所有者には支払うことができない。
- この状況を放置しておくと、周辺住民が危険にさられれてしまう。
- だから、所有者は、所有権を放棄して国に引き取ってもらって、国の資力によって危険防止を計るのが最善であると考えた。
これに対する法務省の回答は、
所有権の放棄はできない。(昭和41年8月27日付民事甲第1953号)
ちなみに、複数人で共有している物件でしたら、「共有持分の放棄」はできます。
民法第255条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
政府が、土地の所有権を放棄したい時に放棄できる制度を検討中
政府は、土地の所有権を放棄したい時に放棄できる制度の検討を始めたとのニュースがありました。
記事によりますと、
- 所有者が管理できるのに、放棄して国や地方自治体に負担を押しつけるような事態を避けるため、災害で危険になった土地に限定するといった一定の要件を設ける方向
- 中山間地などで住民が極端に少ないなど適切な管理を続けるのが難しい土地について、低コストで最低限の管理をすれば済むような仕組みができれば、放棄できる土地の対象が広がる可能性もある
- 放棄された土地の引受先も課題
- 来年(2019年)2月にかけて、法務省の研究会で放棄できる土地の要件や、放棄の際の所有者の負担が必要かなどの詳細を詰める
そうです。
今後の検討の行方には注目ですね。
参考になる事例
- 土地所有権移転登記手続請求事件(松江地裁 平成26年(ワ)第151号 平成28年5月23日判決)
※本件は控訴中(広島高裁松江支部平成28年(ネ)第51号)
【判示事項】
受贈者は,父の所有する土地を将来において相続し保有し続ける事態を避けるため,当該土地の受贈後に所有権を直ちに放棄する目的であえて父から当該土地の生前贈与を受けたものであること,受贈者において,当該所有権放棄により当該土地に関する負担ないし責任が受贈者から国に移転することを認識していたこと,当該所有権放棄により当該土地の所有権が帰属することとなる国において,財産的価値の乏しい土地の管理に係る多額の経済的負担を余儀なくされることなどの事情の下においては,土地の生前贈与の受贈者による当該土地の所有権を受贈後直ちに放棄する旨の意思表示は,権利の濫用に当たり無効であるとされた事例
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【西日本新聞2018年05月04日 06時00分】
近隣襲う竹林…管理限界 相続の80代、資金が底 放棄は法で認められず
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